活動報告

物質・情報卓越教育院 第4回 最先端研究セミナー開催

物質・情報卓越教育院では、2023年7月24日(月)に、オンラインにて「東工大 物質・情報卓越教育院 第4回最先端研究セミナー」を開催しました。

最先端研究セミナーは、第一線の研究者の方をお招きして、情報科学と物質科学の最先端の話題を基本から分かりやすく解説していただくシリーズ企画です。

第4回目となる本セミナーでは、前田 真吾教授(東京工業大学 工学院)と大場 史康教授(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所)にご講演いただきました。  本セミナーは、情報科学と物質科学の最先端を広く一般の方に知っていただくため、一般公開セミナーとして開催されました。セミナー当日は、企業関係者や学内の学生・教職員、学外の研究者など多くの方にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

<第1部>「ソフトマテリアルを活用したソフトマシンの創成」

前田 真吾(東京工業大学 工学院 教授)

第1部では、「ソフトマテリアルを活用したソフトマシンの創成」と題し、前田先生が取り組まれているゴム、ゲルや機能性流体といったソフトマテリアルを用いた自律性を有するソフトロボットに関する研究について紹介いただきました。

一般にロボットや機械は、機械工学、電気工学、電子工学、情報工学、通信工学の工学分野の技術を統合して組み上げられた知能システムですが、最近では、大変形するようなソフトマテリアルを活用したセンサ、アクチュエータ、情報処理がソフトロボティクスにおいて展開されており、物質と情報の融合による研究が進んでいます。

近年、様々な産業ロボットが開発されていますが、ソフトロボットを作るのは難しく、人間では簡単にできる「コップを掴む」などのタスクもロボットには難しい作業となります。ソフトマテリアルを使い、“柔軟性”や“適応性”をロボットに組み込むことで、それらの難しい作業ができるようになるといいます。前田先生の研究室では、柔らかさを基軸として様々な分野が融合したソフトロボットの開発に取り組まれています。本セミナーでは、伸縮性電極を使った誘電エラストマーアクチュエーター(DEAモーター)や従来空圧システムを使って動かしていたソフトアクチュエーターをポンプがなくても電気化学反応で流体を操作して動かすことができる軽量伸縮ポンプ(EHDポンプ)の開発などについて分かりやすく解説いただきました。

また、今後の発展として近年取り組まれている、配線不要、プログラム不要、バッテリー不要の化学反応とソフトマテリアル(高分子ゲル)を融合した化学ロボットの研究についても紹介いただきました。BZ反応の化学反応ネットワークをアルゴリズム化することで、生物のような自律的に動くゲルや人工的な体内時計の仕組みを実現することができるといいます。 前田先生は、近年、生物、物理、機械、材料、電気など様々な分野の研究者が集まるプロジェクト「Science of Soft Robots」にも参画されています。異分野と融合した研究を進めることで、今後さらに新しい発想でロボットの開発が進むことが期待されます。

参加者の声

  • 境界領域における大変興味深い研究展開が進んでいることに感銘を受けました。
  • ロボットの材質をソフト化することで、人間の指の動きのようにナットを締められるところが斬新でした。
  • 電気が流れるゴムや自律的に動くゲルなど興味を引く材料の紹介が多かったです。自身でもそれらの研究について更に調べようと思いました。

<第2部>「計算科学に立脚した無機材料の設計と新材料開拓」

大場 史康(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授)

第2部では、無機材料の基礎物性・欠陥特性を高精度・高速に予測するための計算科学の手法やそれらの手法を使った窒化物、酸化物等のキャリアドーピングの設計・予測や新材料探索への応用例についてご紹介いただきました。

「理論計算により高精度かつ系統的な材料特性の予測ができれば、一般に難題である新材料の開拓を加速できる可能性がある。」といいます。大場先生の研究室では、無機材料の基礎物性・欠陥特性の高精度・高速予測のための第一原理計算手法の開発や新材料開拓に向けた系統的なデータ生成や機械学習を取り入れたハイスループットスクリーニングの研究に取り組まれています。

本セミナーでは、第一原理計算や機械学習を基盤とし、機能の起源となる原子・電子構造の視点から無機材料を設計・予測する手法や「高精度・高速の両立」と「基礎物性・安定性から点欠陥・表面・界面までの多角的評価」により、信頼性の高い予測をするための手法について、様々な応用例を用いて詳しく解説いただきました。

2022年度に設立された本学の元素戦略MDX研究センターでは、大規模計算とデータ駆動による新材料の開拓に向けて、大規模なデータベースの構築にも取り組んでおり、大場先生もこのプロジェクトに参画されています。 今後、実験グループとの連携が進み、計算データベースを最大限に活かすことで新材料の開拓がさらに進展することが期待されます。

参加者の声

  • 機械学習など情報科学の手法を実際に用いた例を知ることができ,勉強になりました。
  • 高精度第一原理計算を用いて、数多くの物質の中から半導体として有望な新物質の有力候補を探し出せるところが画期的でした。
  • 普段実験に非常に大きな予算を使っていることを感じている手前、このような計算科学での実験は今後の有益な予算使用において重要だと感じました。一方で、実際に実験を行う側としては、計算科学ではできないような実験について考えるだけでなく、計算科学の人たちに使用しやすいデータを出すことの重要性を感じました。

本セミナーにご参加いただいた皆様へ

この度は、多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。
本セミナーはシリーズ企画であり、年に1~2回の頻度で開催いたします。物質と情報の最先端の情報を、第一線でご活躍する著名な先生方にご講演いただきます。今後も、皆様にとって有益でかつ、最新の話題を提供して参りますので、次回以降もぜひ最先端研究セミナーにご参加ください。

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連絡先 東京工業大学 物質・情報卓越教育院事務局
tac-mi[at]jim.titech.ac.jp