活動報告

2019年度物質・情報プラクティススクール実施報告

 物質・情報卓越教育院では、世界初の物質・情報プラクティススクールを8月5日から9月20日までの間の6週間、旭化成株式会社 研究・開発本部インフォマティクス推進センターで実施しました。プラクティススクールとは、MITで100年以上の歴史あるスクールであり、化学工学モデリングを用いて企業の課題を解決するスクールです。本教育院ではMITプラクティススクールの考え方を踏襲しつつ、世界で初めて、情報技術を駆使して企業の課題解決を行う「物質・情報プラクティススクール」に挑戦しました。物質・情報卓越教育院に所属する博士後期課程1年の古賀康友、小林成、小林吉彰、田原寛之、松本浩輔、保田知輝、渡邊正理、Qu Shiliの8名の学生が参加しました。

世界初の物質・情報プラクティススクールを実施

 情報技術を用いて企業の事業課題を解決するプラクティススクールは世界でも初めての試みです。旭化成株式会社より2つの大きな課題を出していただき、学生たちは2つのグループに分かれて8つの課題に取り組みました。TAC-MIに所属する博士後期課程1年生8名と松下特任准教授が常駐し、その他8名の東工大の教職員が不定期に訪れ、課題解決に取り組みました。6週間という限られた時間の中で、学生たちはシミュレーションや情報技術を駆使し、目覚ましい成果を出しました。

プラクティススクールに取り組む学生
プラクティススクールに取り組む学生

プラクティススクール最終報告会

 9月30日、東京都千代田区大手町の経団連会館カンファレンスにて、本学と旭化成株式会社によるプラクティススクール最終報告会を開催し、プラクティススクール参加学生8名が最終報告を行いました。最終報告会には、本学教員および企業関係者ら約50名が参加しました。

 報告会は、物質・情報卓越教育院 山口教育院長および旭化成株式会社 白井博史上席執行役員の開会のご挨拶で始まり、続いて2つの学生グループがそれぞれの成果を報告しました。

左から、保田さん、古賀さん(グループ1)
左から、渡邊さん、小林(成)さん、田原さん(グループ2)
左から、松本さん、小林(吉)さん(グループ1)
左から、田原さん、Quさん(グループ2)

 学生たちの発表後、東京工業大学 益一哉学長、水本哲弥理事・副学長(教育担当)及び旭化成株式会社 山岸秀之常務執行役員より講評のお言葉をいただきました。

 益学長は今回のプラクティススクールにて学生を指導していただいた旭化成株式会社の現場の方たちへ深く感謝の意を表するとともに、「化学系の学生たちが機械学習を活用し説明していることに、学長として大変嬉しく思う」と述べました。また、学生たちへ「産業界の方は、褒めることから始めます。そのうち、厳しい意見が出てきた頃からが一番大事なところで、次のステップが待っています。」とアドバイスを送りました。

益一哉学長

 水本哲弥理事・副学長は「学生が取り組んだテーマは、現場で起こっている様々な現象をモデル化して情報学的に処理し、それを現象の解決につなげるもので、そのような課題を与えて下さった旭化成株式会社の皆様に感謝を申し上げます。」と謝意を述べるとともに、「普段自分たちが使ってない力を十分に発揮し、解決につながるアプローチをしたことは、非常に素晴らしいプログラムだと思います。その結果が企業側の最初の希望どおりにつながるかどうかはこれからだと思いますが、学生たちが示してくれたアプローチは、企業にとって何らかのプラスになると実感しました。今年参加した8名の学生にとって、この経験がこれからの彼らの研究者としての幅を十分に広げることでしょう。」とプラクティススクールの成果を評価しました。

水本哲弥理事・副学長(教育担当)

 旭化成株式会社の山岸秀之常務執行役員は「今回学生たちは、まずはデータ化するという新たな形で進め方を示してくれました。材料を開発する企業にとって、このような形で開発を進めていくことは重要なことだと思います。データを駆使したアプローチを実践できるかどうかが今後の日本の未来に関わってくると思います。」と、期待を示されました。

旭化成株式会社  山岸秀之常務
プラクティススクール最終報告会参加者の集合写真

 今回プラクティススクールに参加した学生が、この経験を活かし、ものづくりの知識と情報技術を駆使して、企業での研究開発、ものづくりの分野や大学での研究で活躍できる人材となることを期待します。

旭化成株式会社からのメッセージ

 この度はプラクティススクールを実施いただきありがとうございました。現場が直面する課題の中から2テーマを取り上げましたが、学生の皆様の真剣な姿勢と優れた検討遂行力、また教職員の方の的確なサポートにより、新たな知見や今後の施策に繋がる成果を得ることができました。6週間という短期間で成し遂げたことはまさに驚きで、改めて貴学の底力とTAC-MIの教育への熱意を実感した次第です。 人財育成の面でも、学生の皆様に留まらず、教員の皆様、弊社の若手や管理層に至るまで、普段得られない様々な事を得る貴重な機会になったと感じております。プラクティススクールは産学に新風を吹き込み、優れた人財の育成とイノベーションが期待できる新たな枠組みと考えます。今後の発展と皆様のご活躍を心より祈念いたします。


教育院長からのコメント

山口教育院長

物質・情報卓越教育院長
山口 猛央

 今回、我々はMITプラクティススクールの考え方は踏襲しつつ、世界で初めて、情報技術を駆使して企業の課題解決を行う「物質・情報プラクティススクール」に挑戦しました。情報技術を用いる初めての試みであり、テーマを出すことは大変だったと思いますが、旭化成株式会社のご好意で企業にとって大切な、事業に直結する課題に取り組ませていただきました。今回は教育院が立ち上げ期にあるため準備不足が多い状況でしたが、参加学生がそれぞれ努力し多くの成果を出しました。
 今回の物質・情報プラクティススクールは成功したと確信しています。参加学生の努力はもちろん、東工大から参加された教職員の方々、テーマを出してくださり、スクール中も丁寧に協力くださった旭化成株式会社の皆様のお陰です。この場を借りて、心より感謝いたします。ありがとうございました。

特任教員からのコメント

物質・情報卓越教育院 特任准教授
松下 雄一郎

 旭化成株式会社から出された課題はいずれも、大変にやりがいのある、そして社会・製品に直結した歯ごたえのある課題であり、6週間という限られた時間の中で、学生さんは悪戦苦闘の中で取り組んでくれました。学生たちはシミュレーションや情報のテクニックを用い、目覚ましい成果を出してくれました。私が、彼らと共に6週間を過ごしながら感じたのは、彼らのコミュニケーション能力の高さと、柔軟さ、誠実さです。TAC-MIの学生はそれぞれ全く異なる(物理・化学・材料・生物と多岐に及ぶ)バックグラウンドを持ち、お互いの知識や経験、長所を最大限に発揮し、お互いに教え合い、さらには旭化成株式会社の様々な部署の方々を巻き込んで議論し、決してくじけず笑顔を絶やさず真摯に課題を進めてくれました。今回の課題を通じ、今の社会にいかに情報と物質の両方の知識を持つことが重要かを私自身も含めて痛感させていただきました。
 旭化成株式会社の皆様には、本気の、そしてやりがいのあるテーマを出していただきありがとうございます。また、フランクで和気あいあいと明るい雰囲気を作っていただき、そして学生と一丸となって課題解決を進めていただきました。このような絶好の教育の機会をいただき、誠にありがとうございました。この場を借りて感謝申し上げます。

参加学生からのコメント

物質理工学院
応用化学系 応用化学コース
博士後期課程1年
松本 浩輔

 今回プラクティススクールを行う中で、実際に企業で得られた「ビッグデータ」に初めて触れました。その量は膨大で、解析には普段の研究では用いることのないPythonを用いる必要があったため,序盤はとても苦労しましたが、バックグラウンドの異なる仲間とともに協力し合いながら、前向きに取り組むことができました。この経験は、自身の知識や経験の幅を広げる上で大変貴重であったと感じています。また、現象の真理を追求し続ける普段の研究とは異なり、短期間で課題解決をしなければならない企業での研究を経験できたことも、今後の自身の人生の大きな糧になると思います。

参加学生からのコメント

物質理工学院
材料系 ライフエンジニアリングコース
博士後期課程1年
田原 寛之

 プラクティススクールでは、「企業が直面している課題に対して、実際のデータを交えつつ、機械学習の手法を用いて解決の糸口を見つける」という通常のインターンシップとは一線を画す、貴重な体験をさせていただきました。私自身は機械学習の経験が浅く、どのように予測モデルを構築すれば良いのか試行錯誤の連続でした。最終的には、旭化成株式会社の皆さんや物質・情報卓越教育院の先生方のご支援のおかげで、結実させることができました。また、プラクティススクールでは、分野の異なる学生さん達と接する機会も多く、研究の面でも沢山の刺激を受けました。ここで得られた経験を糧にして、今後の研究に活かしていきたいと考えています。

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連絡先 東京工業大学 物質・情報卓越教育院事務局
tac-mi[at]jim.titech.ac.jp