活動報告

物質・情報卓越教育院 第3回 最先端研究セミナー 開催

物質・情報卓越教育院では、2022年7月26日(火)に、オンラインにて「東工大 物質・情報卓越教育院 第3回最先端研究セミナー」を開催しました。

最先端研究セミナーは、第一線の研究者の方をお招きして、情報科学と物質科学の最先端の話題を基本から分かりやすく解説していただくシリーズ企画です。

第3回目となる本セミナーでは、瀧ノ上 正浩教授(東京工業大学 情報理工学院)と一杉 太郎教授(東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻)にご講演いただきました。 本セミナーは、情報科学と物質科学の最先端を広く一般の方に知っていただくため、一般公開セミナーとして開催されました。セミナー当日は、企業関係者や学内の学生・教職員、学外の研究者など200名以上の方にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

<第1部>「リビングシステムズ材料学を目指した情報分子DNAによる分子ロボティクス」

瀧ノ上 正浩先生(東京工業大学 情報理工学院 教授)

第1部では、「リビングシステムズ材料学(LiSM)を目指した情報分子DNAによる分子ロボティクス」と題し、瀧ノ上先生が取り組まれているDNAから人工細胞や分子ロボットをつくる最先端の研究について紹介いただきました。

近年、生体分子を用いたナノ構造や分子反応ネットワークを用いて、分子コンピュータや分子ロボットを構築する研究が加速しており、それらをシステム化して、人工的な細胞をボトムアップ的に構築する研究まで発展しています。これは、コンピュータを用いて生体分子の構造や反応を大規模に精度良く予測できるようになったことがきっかけとなっており、まさに物質✕情報によって研究が加速している分野です。

人工物と生物の違いとは何か。人工物の場合、情報がモノを制御するのに対し、生物は情報とモノが一体化し、相互に制御し合っています。知性を持ち、情報を記憶し、学習する内部状態を持つのが生物らしさです。瀧ノ上先生の研究室では、DNAナノテクノロジーの技術を使い、内部状態を持つ自律システムをボトムアップ的に構築し、より生物らしい物質(人工細胞・分子ロボット)の開発に取り組まれています。本セミナーでは、情報分子であるDNAを用いた人工細胞やがんマーカーのmiRNAのパターンを検出する新規の分子コンピュータの構築などについて分かりやすく解説いただきました。 また、近年開発に成功したDNAオリガミを集積させたカプセル状の人工細胞の研究についてもご紹介いただきました。この膜カプセルはDNAナノ構造により形状や機能が設計可能で、膜の機能を設計することで,アプリのように追加・入れ替えができるといいます。このような革新的な技術により、新たな人工細胞や細胞型分子ロボットの開発が進むことで、生命科学や医療分野、ナノマイクロマシンなど幅広い分野において応用・発展されることが期待されます。

参加者の声

  • DNAをベースとした人工生物や物質の合成の研究がここまで進んでいることを知り、感銘を受けました。
  • 初めて聞く分野の話でしたが、背景から説明されていたので非常に理解しやすかったです。DNAを使ってコンピュータのようなことができるということに驚きました。
  • 分子ロボット分野については専門外ですが、ゲノム解析後の未来が自分の想像以上に進化していることに驚愕しております。最後のほうで紹介されていた狙った部位を治療できる分子ロボットのような未来も、空想話ではないと確信しました。

<第2部>「マテリアルDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状と展望、そして、それを切り拓く人材像」

一杉 太郎先生(東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 教授 / 東京工業大学 物質理工学院 特任教授)

第2部では、機械学習やロボットを活用したマテリアルDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けて、世界の動向や研究室での最先端の取り組みについてご紹介いただきました。

「これからの実験室は実験装置(ロボット)がコンピュータとつながり、自動で実験を行うようになる。実験装置はクラウド上で操作を行い、実験結果のデータは自動的に保存される。実験室はクラウド化し、実験装置だけでなく、ノウハウやデータも共有する。これからの新物質の探索では、これまでの研究者の勘・コツ・知識に頼った研究から、ロボットによる自動化・自律型実験へ変わっていくことが重要なカギになる」と強調されました。

新物質の探索において、計算シミュレーションやビックデータにより予測するためには,大量のデータが必要です。データの収集には機械学習やロボットを活用した自動・自律実験を行い、大量の実験データを蓄積する必要があります。しかし、日本では、まだこのようなマテリアルDXが進んでいないのが現状です。なぜマテリアルDXが進まないのか。研究を加速するためにはどうしたらよいのか。本セミナーでは、「創造性がより高い研究」に取り組むために必要なことや、「そのような時代を切り拓く人材像」について参加者とともに考えました。 ロボットを用いた実験室の自動化、ベイズ最適化を含むAIアルゴリズムを使った自立化が研究のスピードと質を変え始めている現状について、多くの実例を用いて説明いただき、世界の潮流を理解することができました。また、データの蓄積と共有が、研究分野、応用分野にて非常に重要で、そのためのプラットフォーム作りが進んでいる状況と、改善すべき課題を知ることができました。

参加者の声

  • まさにパラダイムシフトともいえるマテリアルDXについて、その思想の大局・社会の中での必要性と意義・システムと実施例について大変分かりやすく、またワクワク感とともに学ぶことができました。
  • 今後の研究のあり方を考えさせられる内容でした。変わりたくないと思っても、世の中は変化していくのだな、と思いました。
  • 非常に分かりやすくかつ洗練されたご講演で現状と未来について知ることができたのと同時に、重要なターニングポイントに差し掛かっているということに強い緊張感を覚えました。今後、このような取り組みは更に加速していくことと思いますので、振り落とされないように頑張りたいです。

本セミナーにご参加いただいた皆様へ

この度は、多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。
本セミナーはシリーズ企画であり、年に1~2回の頻度で開催いたします。物質と情報の最先端の情報を、第一線でご活躍する著名な先生方にご講演いただきます。今後も、皆様にとって有益でかつ、最新の話題を提供して参りますので、次回以降もぜひ最先端研究セミナーにご参加ください。

最新の記事へ
一覧ページへ
過去の記事へ

連絡先 東京工業大学 物質・情報卓越教育院事務局
tac-mi[at]jim.titech.ac.jp